最低50歳まで現役と言ってきた大リーグ・マリナーズのイチロー選手が「有言不実行の男になってしまった」という言葉を残して、プロ野球選手としての第一線から引退することを表明しました。数々の記録と実績を残してきたイチローに拍手を送りたいと思います。
1時間以上行った引退会見の中で私が気になったことがあります。それは「2001年に僕がアメリカに来たが、2019年現在の野球は全く別の違う野球になりました。まぁ、頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……」というイチローのこんな発言でした。
“頭を使わなくてもいい”とは、ビッグデータに基づいて効率的に行うということです。ビッグデータの運用はフロントだけでなく、選手側も取り入れられるようになってきました。良い意味では、客観的に選手を判断できるので効率的に強化できる。その一方で面白みのない野球につながっているとも言われています。
状況をどう読むか。守備位置はどうか。野手の能力はどうか。投手はどんな攻めをしてくるのか。その中で得点につなげるには、どんなアプローチがベストなのか。ありとあらゆる引き出しの中から、最善策を探す。投手のデータも頭に入れ、どう角度をつければヒットになるかも把握している。経験、データ、技術。すべてが集約されてはじめて1本のヒットにつながり得点を生みます。頭を使った複雑なプロセスがとても軽視されてきています。データそのものを否定するものではありませんが、危惧しているのはそれとの距離感です。
スポーツに限らず、あらゆる世界がビッグデータを活用して効率的に行う傾向が強くなってきています。“職人技”とかという言葉はこれからあまり聞かなくなっていくような気がします。さらにはAI(人工知能)の発達により、あらゆるものが最適な状況を判断し指示してくれる時代がきます。現在では、働き方改革ということがよく言われますが、「生きがい」や「やりがい」など、どんな使命感を持って仕事をして、どのように社会に貢献していくかということがとても重要になってきます。「頭を使わない」ということが当たり前になることがまだまだ想像できませんが、大きく社会が変わっていくことは間違いなさそうですね。時代に取り残されないように頭を使っていきたいと思います。
